菅総理退任へ

先週、令和3年9月3日、菅義偉内閣総理大臣、自民党総裁が次の自民党総裁選に出馬しない旨の意向を表明した。

あくまで次の総裁選に出ないという話だが、何事もなければ総裁選、衆院選後の首班指名とともに内閣総理大臣の任を退くこととなる。

理由について総理自身はコロナ対策と選挙活動は両立できない、前者に注力したいと述べている。

だが、実際は、菅総理では衆院選を戦えないという自民党内の意見によるもののようだ。

 

コロナ対策が原因か

世論調査では菅内閣の支持率は低下していた。8月時点で30~35%程度。コロナ対策が理由だという。

だが、ワクチンは日本の人口分を速やかに確保し、接種も迅速だった。

現時点で、1回接種をした人が日本の人口の6割近く、2回接種をした人が半数近くに至っている。

にもかかわらず菅政権のコロナ対策への評価が低いのは、確かにマスコミによるネガティブキャンペーンもあるだろう。

だが、それを差し引いても発信不足の面はあった。

もともと菅総理はそのような情報発信があまり得意でないように見受けられるが、現行の民主制のもとでは国民に判断材料となる情報を伝えることも政治家の義務となる。

緊急事態宣言により国民生活、経済は大きな影響を受けた。だが、宣言の根拠と見通しが不明確だった。

専門家の意見を聞いて決めたという。確かに政治家が具体的なウィルス対策を立てられるものではないだろう。

それならそれで聞いた事そのままの繰り返しでも、「将来の収束に向けて、このような道筋を描いている。そのために今この段階で、このような理由でこの措置が必要なのだ」ということを国民一般に伝わるように説明すべきだった。

何のために我慢するのかよく分からないまま、ただ制限が求められ、終わった、さあ、頑張ろう、取り戻そうと思うとまた制限。この繰り返しでは国民が疲弊するのは当然だ。

この発信が不十分だったことによる評価は甘受していただくしかない。

 

ただ、発信不足だけでここまで支持率が低下するものなのだろうか。

確かに自治体によりワクチン接種の割合はバラツキがあり、接種したくてもできない一定層は存在する。しかし、全体的な接種の割合は前述の通りだ。

むしろ、国民に多大な制約と負担を被らしめた緊急事態宣言が本当に収束に向けてなされたものか、疑問を抱かれた面も否定できないのではないかと考えている。

 

緊急事態宣言は選挙対策か

3カ月ほど前だったと記憶しているが、自民党の細野豪志氏がツイッターで菅政権の衆院選の選挙戦略として、このような趣旨のことを述べていた。

「緊急事態宣言による自粛要請で(投票率の高い)高齢者に安心感を与えてアピールし、事業者には給付金で対応する選挙戦略」

私は最初にこのツイートを見たとき、堂々と凄い事を書いているな、と思った。

今回このブログを書くにあたって当該ツイートを探したのだが、見当たらなかった。私が探し切れていない可能性もあるが、そうでなければ消したということになる。

マズいと思ったのだろう。

それはそうだ。

宣言により失業し、事業を廃業し、あるいは一生に一度のイベントが流れ、あるいは身内に会えないまま今生の別れとなった方も少なからずいるのだ。

それがコロナ対策やっていますアピールという与党の選挙対策のためというのでは堪ったものではない。

実際、一方で国民には移動の制限を求めながら、他方で与党議員も含めて国会議員は衆院選に向けてお国入では、誰だって「ちょっと待て」と思うだろう。

そもそも、国会議員であれば、まず自ら範を示そうと考えないのか。

更に、この記事を書いている時点で、緊急事態宣言の延長が検討されているとのこと。

緊急事態宣言に選挙対策が透けて見えてしまったことが支持率を押し下げた原因となったのではないか。

 

実績はあった

菅政権の実績としては、ワクチン確保、接種の他にも、クアッド(Quad 日米豪印)による対中牽制や学術会議改革、オリンピック開催、自衛隊機のアフガニスタン派遣等が挙げられる。

自衛隊機のアフガン派遣が議題となったときは、またグダグダして先送りになるのだろうなと思っていたら迅速に派遣となった。

裏方、調整役を長くやっていたからできた早業だと言われているが、ともかくこの派遣には驚いた。

 

これらの実績にも関わらず、選挙対策が透けて見える緊急事態宣言で減点されてしまった。

この考え方が合っているのであれば、「選挙対策」を求めた議員達の行動は逆効果だったこととなる。実際、ここへ来て10月以降の行動制限の緩和が言い出され始めている。

 

更に、自民党のウイグル弾圧に関する対中非難決議の見送り、選択的夫婦別姓やLGBT法といったリベラル層アピールの動き、皇統問題についての曖昧な態度なども追い打ちとなったのではないか。

国会と政府は一応別物ではあるのだが、議院内閣制の下では菅政権と菅総理が総裁を務める自民党が同一視されるのはやむを得ない面はある。

それでいて自民党や連立与党公明党の支持率には変化はないとのこと。「選挙対策」を求めたのは与党であろうから、菅政権は自民党や公明党のやらかしを体よく押し付けられ、大幅な減点をされてしまった感が否めない。

菅総理では戦えないというが、戦えなくなった理由は菅総理では戦えないと言っている議員達ではないのか。

 

確かに内閣総理大臣は国政の最高責任者ではあるのだが、何か釈然としないものがある。

 

だが、ともあれ総理の判断したこと。菅総理は退任することとなる。

もともと自身が中継ぎ、ピンチヒッターだという認識ではあったろうが、火中の栗を、それと知って拾い上げた勇気と覚悟には社交辞令ではなく敬意を持っている。

まだ少し早いかもしれないが、ここで一応。

 

菅義偉内閣総理大臣。

 

1年ほどの任期でしたが、未曽有の事態を引き継いでの激務、本当にお疲れさまでした。